最終更新日:2020/11/29
季刊「古代史ネット」創刊号
季刊『古代史ネット』編纂委員会編
巻頭言
河村哲夫
令和2年10月1日に日本古代史ネットワークが設立された。役員が選出され、重点的に取り組むテーマが採択された。
- 日本人の起源
- 弥生・古墳時代
- 邪馬台国論
- 科学的年代測定法とその適用
- 日本書紀・古事記・風土記の世界
- 大陸との交流
の6項目である。
1の「日本人の起源」については、DNA鑑定技術の進歩によって、「アフリカ起源説」がほぼ世界的な共通認識となった。現世人類は、アフリカから全世界に広まったとする説である。日本には約4万年~3万年前ごろに到達した。100万年前まで遡及した日本の「旧石器時代」は一体何だったのか、改めて日本の研究水準が疑われる。
それはともかく、DNAという科学的情報を基礎にした日本人の起源を議論すべき新しい時代に突入し、理科系的な発想への転換が最重要課題になっているにもかかわらず、考古学界の中枢にいる研究者は文科系が大多数である。略歴をみると「文学部史学科」がほとんどである。こういう人たちがDNA情報を正しく読み取ることができるのか。こういう基本的な課題を正しく認識しているのか。このような構造的な問題を抱えている状況のなかで最も重要なのは、科学的な情報を正しく認識しうる人材の育成と体制の強化であろう。
2の「弥生・古墳時代」も同様の問題をはらんでいる。「炭素14年代法」あるいは「年輪年代法」という「新しい科学的な方法」とやらで、弥生時代の始まりが大きく遡り、土器編年等に基づく古典的な手法が遺棄されつつある。これらの動きを主導しているのは、邪馬台国近畿説論者を中心とした旧態依然とした考古学界の重鎮といわれる方々である。そこには中立的で公正な「第三者による検証」というものが欠落している。理系の世界では、世界中の研究者がよってたかって検証を行い、たとえば小保方氏のスタップ細胞についても「客観的な再現可能性」がないということでごみ箱に捨て去られ、世界中に恥をさらした。
ご承知のとおり、「炭素14年代法」は学界でのそのような検証もないまま、マスコミにリークされ、今では堂々と一人歩きしている。「年輪年代法」についても、その基礎データすら公表されず、客観的な第三者による検証もないまま、これまた堂々と一人歩きしている。かつては近畿説論者すら箸墓の年代は4世紀としていたはずなのに、今では3世紀の卑弥呼の時代の墓として堂々と一人歩きしている。しかも、膨大な国費を纏向遺跡に投入しつづけている。いったいこれは何なのか。考古学界の構造的な問題がその根底にあるのではないか。
3の「邪馬台国論」についても同様である。中立・公平であるべき国・公共体及び関係機関が堂々と「邪馬台国近畿説」の旗を振っている。行司が相撲を取っている。他の分野では考えられぬことである。何の根拠もなく『魏志倭人伝』の「南」を「東」に読み替えて、恥じることを知らない。かつては近畿説の重鎮であった門脇禎二氏の遺稿『邪馬台国と地域王国』(吉川弘文館)を読まれたことはあるのか。近畿説から九州説へと大転換された真実の声がそこには痛々しいまでの筆致で記されている。
4の「科学的年代測定法とその適用」という問題。これは上記したすべての分野に共通する横断的で最も重要な問題である。この世のすべては、時間と空間という基本的な形式のなかで生成する。歴史もまた時空という座標軸のなかで記される。この基本中の基本であるべき座標軸を軽々しく動かしているのが現在の考古学の最大の課題ではないか。全国の考古学施設で最も苦慮しているのがこの問題である。かつて先輩たちが苦心して掲示した各コーナーの説明板にどう対応したらいいのか。古典的な年代で書いたらいいのか、最新流行の年代で書いたらいいのか悩んでいる。世代間の静かな対立と混乱と動揺が考古学の現場でつづいている。
5の「日本書紀・古事記・風土記の世界」も極めて重要な問題である。戦後これらは歴史の世界から追放され、記紀を論じるだけで戦前の「皇国史観の亡霊」あるいは「保守反動の輩」呼ばりされる時期もあった。論じるにしても、主観的な読み替えを行って自分の説を正当化する目的で使用されることも少なくなかった。『日本書紀』の記事を否定するためにのみ使用する人が少なくなかった。『魏志倭人伝』を右手に掲げ、日本の文献は足元に踏みつけて論じる人がほとんどであった。今でも基本的にこの風潮は変わらない。戦後80年に迫ろうとする令和の時代に、このようなことを続けていいのか。戦後の総決算は、歴史の分野で行われてこそ、戦後は終わる。記紀など日本文献の復権こそ、新しい時代の燭光となる。
6の「大陸との交流」も極めて重要な問題である。たとえば日本人も日本語もアジアで孤立したものではない。日本の歴史ももちろん孤立したものではない。大陸との相互交流のなかで形成されたものである。日本は島国であるために一見孤立的な要素が強いようにみえるが、基本的な骨格は大陸との交流のなかで形成されている。このような俯瞰的な観点を絶えず意識しながら、日本の歴史をとらえる基本的な姿勢が必要不可欠である。
以上の6項目の重点テーマを掲げて、日本古代史ネットワークが船出した。
いずれにしても、日本の古代史全般に関わる多角的・総合的な検討をめざすもので、客観的・科学的・実証的な観点に立脚した新しい総合的な古代史の実像に迫ろうとするものである。
この試みを達成するためには、多くの方々の叡智を結集するしか方法はない。そこで、本会では本会の会員か否かを問わず、広く古代史に関する論文を募集するとともに、応募された論文のなかから、優秀な論文について、季刊『古代史ネット』に掲載することとしている。
いろいろな分野からの、多くの方々のご参加による、いろいろなテーマの論文をお願いしたい。
- ○日本古代史ネットワークの役員体制等
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- 理事:
- 鷲﨑弘朋
- 丸地三郎
- 河村哲夫
- 山内千里
- 野口和夫
- 浅野 登
- 川崎日香浬
- 石合六郎
- 尾形慎一
- 愛川順一
- 木原 昇
- 緒方淑子
(以上12名)
- 監事: 黒河 昭一(以上1名)
- 会長: 鷲﨑 弘朋
- 副会長:
- 丸地 三郎(東日本担当)
- 河村 哲夫(西日本担当)
- 事務局長: 丸地 三郎(兼東日本担当事務局長)
- 会員管理担当: 野口 和夫
- (兼)西日本担当事務局長: 緒方 淑子
- 解明委員会: 担当 丸地三郎・鷲﨑弘朋
- 理事: