最終更新日:2020/11/29

季刊「古代史ネット」創刊号

緊急レポート!! 炭素14年代:国際較正曲線INTCAL20と日本産樹木較正曲線JCAL

<速報コメント>  2020.10.04(更新 2020.10.21)鷲崎弘朋

さて、最新の北半球の炭素14年代・較正曲線INTCAL20は、紀元前後~AD450年頃は日本産樹木較正曲線JCALが基準となり、JCAL=INTCAL20としてほぼ統一された(2020年8月、歴博発表)。これにより、弥生古墳時代の年代観に大きな影響が及ぶ。

  1. 大阪府池上曽根遺跡ヒノキ柱根N0.12の最外年輪:炭素年代は2020BP

    2020BPの実年代(較正年代=暦年代はBC50~AD100年、中心はAD1世紀前半頃で従来考古学通説と一致 (図3。大阪湾岸の海洋リザーバー効果も配慮すべき(遺跡は海岸から2km)。年輪年代測定値はBC52年 伐採だが、従来考古学通説と100年乖離し、従来通説(AD1世紀中頃)が正しい可能性が強い 。

  2. 纏向遺跡大型建物跡の土坑出土の纏向桃核(名古屋大測定12個、山形大測定2個、合計14個の加重平均):炭素年代は1823BP

    1823BPの実年代は、AD220~AD260年あるいはAD290~AD340年(図3)。

  3. 箸墓周辺出土の布留0土器: 炭素14年代は1800BP

    1800BPの実年代は、AD240~AD260年あるいはAD290~AD340年(図3)。
    箸墓築造年代の従来通説はAD300年頃~4世紀前半で、1800BPはこの通説と一致する。

図3

IntCal20較正曲線に、日本産樹木年輪のデータが採用されました

国立歴史民俗博物館 2020年8月25日発表

炭素14年代法に欠かせない較正曲線の最新版「IntCal20」に,国立歴史民俗博物館が中心となって測定を進めてきた日本産樹木年輪のデータが採用されました。較正曲線の形状が従来のものから変更され,なかでも弥生から古墳にかかる時期が大きく見直されました。

【 新しい較正曲線】

炭素14年代法では,較正曲線を用いて炭素14年代を暦年代に修正します。較正曲線は年輪年代法などで年代の判明した資料の炭素14年代に基づいて整備され,IntCalは日本を含む北半球の陸上資料に適用される汎用的な較正曲線です。

較正曲線は数年ごとに改訂され,2020年8月には多くの新データを反映した較正曲線「IntCal20」が公開されました(Reimer et al., 2020, DOI: 10.1017/RDC.2020.41)。前版のIntCal13較正曲線では福井県水月湖の過去1〜5万年前の堆積物データが採用され,大きな話題となりましたが,それに加え,IntCal20には初めて日本産樹木年輪のデータが採用されました(図1)


図1 (クリックすると拡大)

図1:炭素14年代/暦年代

日本産樹木年輪測定の取り組み(歴博発表)

国立歴史民俗博物館は,奈良文化財研究所,総合地球環境学研究所,東京大学,名古屋大学,山形大学,日本原子力研究開発機構などとの共同研究,ならびに科学研究費補助金による研究を通じ,20年以上にわたって日本産樹木年輪の炭素14年代測定を継続してきました。その過程で,西暦1〜3世紀の挙動が従来のIntCal較正曲線と合致しないことを明らかにしました。今回のIntCal較正曲線の改訂は,日本産樹木年輪の挙動に合わせた形になりました(図2)


図2

図4(図2bの拡大)

【箸墓古墳の築造年代】INTCAL20によって、弥生・古墳時代の年代観が大きく変わった。

箸墓周辺の布留0土器の炭素14年代は1800BPである(上図 。この1800BPをINTCAL20較正曲線で実年代(暦年代)に補正(変換)すると、AD250年頃と 4世紀前半(AD300~AD350年の二つ候補があるが、上図4で分かるように4世紀前半の可能性がより高い。

2011年3月、『国立歴史民俗博物館研究報告』第163集が発刊された。この中に、「古墳出現期の炭素14年代測定」があり、箸墓古墳の築造を240~260年と断定し、土器編年等からの従来通説「箸墓築造はAD300年前後~4世紀前半」を否定した。

この報告では、較正曲線INTCAL09とJCALを併記するが、結論「箸墓築造は240~260年」は誤りで、多くの批判・反論を受けている。鷲崎も以下論文で批判した。

  • 鷲崎論文『歴博「古墳出現期の炭素 14 年代測定」は誤り』(季刊『邪馬台国』111 号、2011 年 梓書院)

なお、纏向桃核の炭素14年代について、名古屋大学と山形大学はINTCAL13較正曲線で実年代へ換算(較正)した(下の図。それによると、2018年当時のINTCAL13では、この桃核の実年代はAD135~AD230年と判定された(2018年5月、纏向学研究センター紀要)。

しかし今回INTCAL20を使用すると、下図5のように実年代が大きく変化し、100年新しくなる 。すなわち AD220~AD260年あるいはAD290~AD340年の二か所が候補となるが、図5から判断するとAD300年頃~4世紀前半が有力となる。同様に、箸墓周辺布留0式土器の年代もAD290~AD340年が有力となる。

このように、今回INTCAL20への移行によって、弥生末~古墳発生期の年代の大幅見直しが必至の情勢となった。

図5

【INTCAL20、JCAL、INTCAL13及び年輪年代法】

歴博の坂本稔教授等は、日本産樹木「箱根町埋没スギ」「飯田市遠山川埋没ヒノキ」「宮田村埋没ヒノキ」等の炭素14年代を測定し、JCAL作成用データとした(図1参照)。最新の国際較正曲線INTCAL20では、紀元前後~AD450年はJCALを全面的に取り入れ、ほぼJCAL=INTCALと設定した。

図4のINTCAL作成デ-タを見ると「Seatle treerings」・・・「Sakamoto treerings」の5種類があるが、日本産樹木「Sakamoto treerings」の測定数が圧倒的に多く、加重平均すれば、ほぼJCALと同じになるからであろう。

従って、紀元前後~AD450年頃はINTCAL20を日本で適用するのは適切だが、北米やヨーロッパで北半球の標準として使用するのは、炭素14濃度の地域差の観点からして、やや問題があるかもしれない。また、日本は海に囲まれた海洋国で、海洋リザーバー効果の影響を大きく受け炭素14年代がやや古めに出ている可能性が強く(特に海岸から10km以内)、北米内陸やヨーロッパ内陸では、様相が少し異なる可能性がある。

以上の鷲崎小論は、INTCAL較正曲線が8月に改定されたばかりでの、個人的見解も含む <速報コメント> であります。

INTCAL20は、日本古代史の弥生古墳時代の年代論に、今後大きな影響を与えるため、もう一つの科学的年代測定法である年輪年代法を含めてさらに検証したい。


以下に、毎日新聞2020年9月23日夕刊の国立歴史民俗博物館・坂本稔教授のインタビュー記事を掲載します――――毎日新聞記者・伊藤和史氏によるインタビュー。記事タイトルとして、

  • TOPICS 歴史研究に多大な影響
  • C14年代測定新段階に
  • 日本産樹木データを初めて採用

記事タイトルのように、今年8月に発表された国際較正曲線の最新改定版・INTCAL20が、今後の【歴史研究に多大な影響】を与えることは確実です。

INTCALとJCALは、従来は特に1~3世紀頃でズレが大きい。弥生から古墳時代への移行期で、日本史上の極めて重要な時期だ。

坂本教授談『研究の目標として、日本版の較正曲線(JCAL=ジェイカル)を作ろうとやってはきたが、図らずも今回、もうイントカルがそのままジェイカルなんですよね』。また、現在、最新版による過去の測定値の見直し作業が急速に進んでおり、弥生~古墳時代の年代観をはじめ、新しい議論の始まりが期待される。

同じく坂本教授談『改定を受け、検証を目的とした測定が世界中で進められます・・・その結果、較正曲線の形が元に戻されることもあり得る』。

以上のように、問題の1~3世紀が今後全面的に見直されることになり、邪馬台国論争や箸墓古墳等の築造時期の判断に大きく影響するであろう。結果として、古墳時代の始まり等が、元の従来通説に戻ることも十分にあり得る。それは、弥生古墳時代の100年遡上をもたらした「ブラックボックスの年輪年代法」の検証に繋がることも意味する。今後の進展が楽しみです。

【注】毎日新聞記事の後に、論文「年輪年代法の弥生古墳時代100年遡上論は誤り」2020.11.01 及び、論文「歴博『古墳出現期の炭素14年代測定』は誤り」2011年

以下は、2020年9月23日毎日新聞記事

『C14年代測定新段階に』日本産樹木データを初めて採用
毎日新聞 2020 年 9 月 23 日 夕刊より 毎日新聞記事
(クリックすると拡大)


創刊号 目次
  1. 巻頭言……河村哲夫
  2. 日本古代史ネットワークの設立総会……丸地三郎
  3. 緊急レポート!! 炭素14年代:国際較正曲線INTCAL20と日本産樹木較正曲線JCAL……鷲崎弘朋
  4. 年輪年代法の弥生古墳時代100年遡上論は誤り……鷲崎弘朋
  5. 記紀神話を歴史として読む……丸地三郎
  6. 卑弥呼の鏡――金銀錯嵌珠龍紋鉄鏡を中心として……河村哲夫
  7. 天照大神の鏡――八咫鏡を中心として……河村哲夫